「生まれ変わるのなら、また母の子として生まれたい」
この言葉は、凄惨な事件が沢山ある中でも最も私の心に衝撃を与えた被告人の言葉です。
そして、それは介護や福祉に関わる悲しい事件の裁判で被告人が発したものでした。
その被告人は、認知症になった母親のために会社を辞め、自分の食事より母親の食事を優先してまで必死に介護をしていたそうです。
そのような苦しい生活の中で、ついには介護疲れや生活苦のためやむを得ず母親を手にかけてしまったのです。
被告人が裁判で発した言葉からは、母親への無償の愛とその母親を手にかけるしか道がなかったというやり切れない想いが伝わり、私も胸が痛くなりました。
ところで、厚生労働省の発表によると現在10人に1人と言われている認知症ですが、10年後には5人に1人という身近な病になると言われています。
自分は大丈夫と思っている方もいらっしゃると思いますが、認知症はもはや他人事ではありませんよね。
そこで、今回のコラムではいざという時の備えの1つとして、成年後見制度と家族信託についてご紹介させていただきます。
■ 成年後見制度について
成年後見制度とは、将来、認知症などで自己の判断能力が不十分な常況になった場合に備えて、あらかじめ信頼できる者(任意後見受任者)に対して希望する法律行為によるサポートを委任する制度です。
※法定後見制度の場合は、判断能力が不十分な常況にある対象者を家庭裁判所が選任します
■ 家族信託について
家族信託とは、生前中に家族や他人に自分の財産の処分や管理について信託契約を締結する制度です。
■ 成年後見制度と家族信託の主な違い
共に自己の判断能力が不十分な常況になった場合に備える制度ですが、2つの制度の権限について主に以下のような違いがあります。
1:権限
・成年後見制度
成年後見人は、被後見人本人のためにしか財産を使うことができません。
そのため、成年後見制度では、相続対策のための借り入れや売買・組み換え、生前贈与などは原則行うことができません。
・家族信託
家族信託は、財産の積極的処分や運用などを受託者の責任と判断において信託目的の範囲内で自由に行うことができます。
ただし、身上監護権を有していないため、施設への入所や病気等で入院することになった場合は、その費用の支払いはできますが入所契約や入院契約手続を行うことはできません。
2:相続手続き
・成年後見制度
被後見人本人の死亡により後見業務が終了するため、相続人又は受遺者に相続財産を引継ぐのみで、死後事務や遺産整理は後見人の業務権限の範囲外となります。
・家族信託
預貯金口座の凍結を回避することができ、契約内容によっては名義変更等の遺産相続手続きなど引き続き受託者の管理下でスムーズな資産承継ができます。
2つの制度を有効活用することで、受託者と成年後見人が財産管理と身上監護とを役割分担することも可能です。
ただし、後見人と受託者について同一人が兼任することができるかについては、後見人は本人の身上監護や財産管理の代理人であり、受託者と利益相反関係に立つことが想定されます。
以上が、成年後見制度と家族信託についてです。
その後、被告人は裁判での判決は情状酌量により執行猶予付きの判決になったのですが、残念ながらその後に自殺を図ってしまいました。
被告人が最期に身につけていたカバンには「へその緒」が入っていたそうです。
認知症に関する制度は、今回紹介した制度を含め色々ありますが、私は不十分な点もあると考えています。
二度と同じような悲惨な事件が起きないよう何ができるのか皆様も一緒に考えてみませんか。
今回のコラムについて詳細を知りたい方は、お気軽に当事務所までご連絡ください。
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